音声注文を始めた米スターバックスの狙いとジレンマ

米スターバックスが1月に発表した音声注文機能「マイ・スターバックス・バリスタ(My Starbucks Barista)」。すでにリリース済みの注文・支払い用アプリ「Mobile Order and Pay」に追加される新機能で、音声によって商品を注文できるというもの。ついにスターバックスも人工知能(AI)系のサービスを投入してきた、ということで話題になりましたね。

メディア向けに公開されたデモ動画では、スマホを手にした女性が「フラットホワイトと温めたバナナブレッドをください」と注文する様子が紹介されています。

ただこの機能はまだベータ版。現在アメリカで試験的に1,000人のみに公開されている状態です。正式リリースは、iOS版が2017年下期、Android版が2018年になる予定とのこと。

スマホアプリ強化と狙いとジレンマ

現在アメリカのスターバックスにとって、アプリを通じた注文や支払いの利便性を高めることが至上命題となっています。

同社が2016年12月に発表した5か年計画の中でも、アプリ利用の促進はデジタル戦略の中心として位置づけられています。

スマートフォンを使って手軽に注文できるようになれば、その分だけ販売数の増加を期待できます。これまでの「Mobile Order and Pay」では、ボタンを押すと商品を注文できるというものでしたが、注文できる商品は限られていました。

今回追加された音声注文機能によって、ディスプレイをたたかずとも注文を済ますことができるだけでなく、「熱めにして」「ミルクは無脂肪乳で」などより柔軟なオーダーもできるようになります。

おそらく新機能によって、スマートフォンを通じた売上はますます増えると思われますが、実は単純に増えすぎても困るというジレンマもあるようです。

背景はこうです。

ここ数年アメリカのスタバでは商品を受け取るまでの待ち時間の長さが問題となっているため、その解決策としてスマートフォンでの注文・支払いを促進したいという事情がありました。

一部の人気店舗では、店内が客であふれかえってしまい、その様子を目にした来客が買わずに帰ってしまうという状態が相次いでおり、売上に悪影響を及ぼしている状態なのです。

そこで同社は、ボタンを押すだけで注文できるアプリ「Mobile Order and Pay」を2015年9月にリリース。来店前に注文と支払いを済ませることができるので、店内の混雑解消に役立つと期待されていました。

このアプリは人気を集め、着実にダウンロード数を伸ばしていきます。実際にアメリカ市場での売上において、スマートフォンでの注文が占める割合は、2016年末までの1年間で4倍の8%にまで上昇しました。

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ただスターバックスにとっての誤算は、手軽に注文できるアプリの人気によって、現状の運営体制でさばききれないほど来客数が増えた店舗が続出してしまったことでした。

アメリカにあるスターバックスの中で、「混雑」状態にあるとされる店舗の数は、2016年末までの1年間で、600店舗から1,200店舗まで倍増したといいます。

ハワード・シュルツ最高経営責任者(CEO)は、2017年1月に行われた決算発表会にて次のように発言しています。

「Mobile Order and Payの利用が急激に進んでいる。特に過去3か月間の伸びが原因で、来客数の増加に対処できない店舗数が増えている」。

つまり混雑を解消するために投入したアプリが原因で、皮肉にもかえって混雑状態が悪化してしまったことになります。

シュルツ氏は同じ席にて、「この問題を非常に重要視している」と発言。作業手順や設備の改善に加え、商品が出来上がったらメールで通知するといった対応策を、アプリの利用が多い上位1,000店舗に対して実施していくとしました。

今回発表された音声注文機能によって、さらに来客数の増加に拍車がかかることになりそうですが、本格リリースは少し先なので、その間に客の受け入れ態勢を整えていくということでしょう。