アドビシステムズに聞く、「Adobe Sensei」の未来【後編】

AI(人工知能)、特にディープラーニング」を活用し、写真の加工や動画の編集、書類のデジタル変換などの複雑な課題に対処する新技術として2016年10月31日~11月4日のAbode MAX2016(米国カリフォルニア・サンノゼで行われたクリエイティブカンファレンス)で発表された「Adobe Sensei」。

アドビ システムズ 株式会社(以下、アドビ)日本法人を訪問し、気になる機能の数々についておたずねしたインタビューの後編をお届けします!

アドビシステムズに聞く、「Adobe Sensei」の未来【前編】

前編では、Adobe PhotoshopやAdobe Premiere Proをはじめとした、クリエイティブ領域のアプリケーションに「Adobe Sensei」がどのように実装されているのか、未来の技術も含めてヒアリングしました。

後編では、日本でも大手企業を中心に導入が進むアドビのマーケティング領域のソリューションについて、「Adobe Sensei」がどう活かされるのか、伺ってみました。

マーケティング領域における取り組み「Adobe Experience Cloud」とは?

――まず、アドビさんが提供されているマーケティング領域のクラウドについて、お聞かせください。

アドビ:私たちの一番のミッションとしては「世界を動かすデジタル体験を提供していく」というものがあります。2017年3月に発表した「Adobe Experience Cloud」では「デジタルによるワークスタイルの変革」を目標として掲げているのですが、具体的には、マーケティング領域でバナーやディスプレイ広告、Eメールキャンペーンなどを効率よく運用していくためのクラウドになります。クリエイティブとマーケティングテクノロジー(従来のアドテク)を統合的に結びつけるのが「Adobe Experience Cloud」の役割です。

――クリエイターがつくったバナーなどを、効率よく運用していくためのツールなんですね。

アドビ:「Adobe Experience Cloud」にはAdobe Marketing Platformなど、広告のアセット管理を行うプラットフォームも含まれています。ユーザーの行動履歴を可視化するデータ分析ツールなどは、他社でも提供されていますが、Adobe PhotoshopやAdobe Illustratorで作ったコンテンツが「どういう風にビジネスに貢献しているか」を統合的に支えるための仕組みが「Adobe Experience Cloud」で、弊社にしかできない強みだと考えています。

マーケティング担当者にとって心強い「Adobe Sensei」

――「Adobe Experience Cloud」では、どのように「Adobe Sensei」が生かされるのでしょうか。

アドビ:いくつかパワフルな機能があるのですが、すでに実装されているものからご紹介させていただきます。

・機能1:自動タグ付け機能で単純作業の手間を減らす

タグ付け

「スマートタグモデレーション」をコンテンツ管理システムのAdobe Experience Managerに実装。たとえばシーズンものの新しい製品を撮影した大量の写真に対して、タグ付け作業の自動化や、一元的な管理といったことができるようになります。

・機能2:異常値検出で要因を自動分析

ウェアラブルイメージ

データ分析ソリューションのAdobe Analyticsでは、WEBの訪問履歴や売上をモニタリング。急な変動があった際にはアラートという形で伝えてくれるだけでなく、その要因を自動で分析し、メールアカウントやウェアラブル端末へ瞬時に伝えてくれる仕組みです。

・機能3:自動パーソナリゼーションで一人ひとりをターゲティング

Adobe Target

自社サイトに訪れた時に異なる広告を見せるためのA/Bテストなど、試行錯誤が必要な作業が増えています。デザインの領域でも「ボタンをどこに載せるか」といったことは、つくり手や運用者の主観によってテストを繰り返すことが必要でしたが、Adobe Targetではこういった作業を自動化し、マーケターの負担を減らすことができます。

※編注 Adobe Experience Manager/Adobe Analytics/Adobe Targetは、すべて「Adobe Experience Cloud」で利用できるソリューション。

また、上記に加え、「Adobe Document Cloud」では、紙の資料を編集可能なデジタル文書に変換することで、より美しいフォントに変更するといったことができます。また、記入枠や解答欄といったフォームフィールドを認識し自動的に作成するため、煩雑な書類作成を容易にできるようになりました。

ほかには、実際にお客さまが「どの広告に接触して、一番売り上げに貢献したのか」というデータを追いかける分析業務(アトリビューション)は、マーケティング担当にとって大きな負担になっています。これをマシーン側が自動的に学習し、データとして可視化できるようにしています。

つくり手の負担を軽減し、効率化を進める

――将来的に実装される機能は、どのようなものがありますか。

アドビ:一例としては、キャンペーン広告のサイズを自動でリサイズしてくれるAdobe Experience Managerという機能があります。

シームレスなエクスペリエンス

SNSのバナー、ディスプレイ広告やEメールキャンペーンに使用する画像などをサイズによってつくり分ける作業は、クリエイターにとってかなり手間のかかる作業となっています。こうした作業を効率化できれば、制作サイドのストレスはかなり軽減できるはずです。

また、今後はBeaconテクノロジー(Apple Payやおサイフケータイなどのフィンテック)やクリック&コレクト(ネットで注文して店舗で受け取るサービス)の導入が進み、お客さまのライフスタイルやニーズに合わせるための仕組みが複雑化していきます。デジタルマーケティングの領域はいろんなツールが存在するわけなんですが、これらをつなぎあわせるのはなかなか大変で、高額なコストもかかります。そのため1つのプラットフォームで一元化できるところは一元化することで、分断されていたユーザー情報を統合することが必要となってきます。つまりお客さまの存在をより見える化していくということです。リアルの世界でも同じで、初めて店舗に足を運んだ方といつも店舗に行かれている方には、接客の内容も変わってくるわけですよね。こういったものをいかにデジタルでやっていくのかを、「Adobe Sensei」といったテクノロジーで示していければと思っています。

「Adobe Sensei」で、クリエイターとマーケターの未来はどうなる?

――AIによって自動化できる部分が増えると「クリエイターやマーケターの未来はなくなるのでは?」と心配されている人も多いと感じます。

アドビ:インタビューの前編でもお話しましたが、ディレクションであったり、クリエイティブをつくる作業というのは「人間が司る領域」ですので、AIでは代替できないと私たちは思っています。ただ、制作や運用といったワークフローの一部は自動化できる領域がたくさんありますので、アドビのツールを使いながら省力化を促進していただき、空いた時間をよりクリエイティブな業務に当てていただきたいですね。

――AIで省力化できることを知らずに延々と人間の手で作業している企業と、自動化している企業は格差が広がっていきそうな気がします。

アドビ:まさしく今ですと「スマホなしでは目的地にたどりつけない」という状況と似たことが、AIの導入にも当てはまるのでは?と思います。10年ほど前までは、地図を印刷して持って行き、駅の何番出口を出て…という感じでしたが、現在は、スマホを持ってとりあえず最寄りの駅まで行けば、目的地までナビゲートしてくれてなんとか到着することができます。だからといって地図の需要がなくなるわけではありません。クリエイティブの分野も同様です。「Adobe Sensei」を活用することによって、クリエイティブのワークフローが劇的に変わりスピードアップしていく、というイメージです。スキルがない人はより簡単に使えるようになり、スキルがある人は楽をできるようになる。こうした取り組みを、アドビでは「スキルの民主化」と呼んでいます。最終的には、制作にデータを生かす、いわゆる、データとコンテンツをつなぐギアとしての部分に「Adobe Sensei」のテクノロジーを利用することで、お客さまに対してより良い「カスタマージャーニー(顧客体験)」を提供していくことを目標としています。法人企業のユーザーさまが、いろいろなタッチポイントでお客さまに対して最適なクリエイティブを送れていないという課題を解決し、そのスピードを加速させることが、マーケティング領域における「Adobe Sensei」の役割なんです。

企業のマーケティング業務におけるクリエイティブ制作やコンテンツ管理、ウェブサイト訪問者の行動分析のワークフローで、自動化できる部分については自動化し、本当に人の手が必要な領域を、人間がコントロールする。アドビシステムズは「Adobe Sensei」によってこうした「クリエイティブとマーケティング業界の新しい未来」を目指しているようです。